【ジャマイカ旅行記8】タクシードライバウィルソン
ウィルソン(タクシードライバー)はとても変わった男だ。
年齢は50~60歳くらいだろうか。 口数は極めて少なく、こちらの質問に対しても答えるべきものと答えなくてもよいものを的確にふるいにかける。
「何時に寝たのか?」「昨日は良く眠れたのか?」 という僕の質問は完璧に無視された。
こういう質問をしたのは、会話のない車内の重い空気を 変えるためではなく、彼がとてもとても眠そうに見えたからだ。
本当にこの男の運転は大丈夫なのか確かめたかったのだ。 下手をしたら朝まで酒でも飲んでいたのかもしれないなと思った。 眠そうな目をして、明らかに疲労がにじみ出ているにもかかわらず、運転は鬼気迫るものがあり、 いつ事故が起こってもおかしくないほどだったのだ。
スピードが速いというばかりではない。車間距離、追い越しの頻度・タイミングなど普通では考えられないような恐怖感を味わった。
ふと助手席の前に目をやると「ぼちぼちいこか。」という日本語のステッカーが張ってある。 本当に。 このような乱暴な運転を見かねた日本人観光客が 「ゆっくり行こうよ!」という意味を込めてプレゼントしたに違いない。
ジャマイカの全ての道路がそうだとは限らないが、、僕たちが通った道には、センターラインや信号はなく、標識も驚くほど少ない。 ただし、稀に現れる標識は的確にその先の状況を示していて、「Slow」とか「Dangerous」というようなシンプルな単語が書いてある標識のすぐ後には、スピードを落とさなければ、本当に命を落とすような状況が待ち構えている。
細い道が突如あらわれ、ガードレールはなく、 ちょっとでも道を外れると崖の下へ真っ逆さまというような感じだ。
「Walking Man」という標識(本当にあるのだ)の後には、実際に道路を無謀に横切る男が頻出する!
日本のように”あってもなくてもいい”標識とういものはない。 「Death」という標識があれば、本当に死んでしまうだろうし、「ベンジョンソン」という標識があれば、会いたいか会いたくないかは別としてベンジョンソンが現れるだろう。※ あまり知られてはいませんが、ベンジョンソンはもともとジャマイカ人です。何かの理由でカナダに帰化したんですね。
サトウキビ工場、ボーキサイト工場、一般住民の生活風景、 プランテーションの跡など、道中いろいろなものを目にした。 左を向けばカリブ海、右を見ればジャマイカの歴史と生活。 これほどスリリングなドライブはそうそうないだろうと思った。 そんな感じでタクシーの旅はまだまだ続いて行くのでした。